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横浜地方裁判所 昭和61年(ワ)2040号 判決 1988年12月22日

原告

青木二郎

ほか一名

被告

平和交通株式会社

ほか一名

主文

被告等は、各自、原告青木二郎に対し一三五〇万八一七二円、原告青木和子に対し一〇五万円及び右各金員に対する昭和六一年九月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

原告等のその余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを五分し、その三を被告等、その余を原告等の負担とする。

この判決は、原告等勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

被告等は、各自、原告青木二郎に対し二〇九三万五一四九円、原告青木和子に対し四〇七万〇三二〇円及び右各金員に対する昭和六一年九月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告等の負担とする。

仮執行宣言の申立て

二  請求の趣旨に対する答弁

原告等の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  事故の発生

発生日時 昭和五八年一〇月二一日午後七時三五分頃

発生場所 横浜市磯子区森二丁目二番七号先国道一六号線上

加害車両 普通乗用自動車(横浜五五う三一〇〇)運転者被告菅英治郎(以下「菅」という。)

被害者 原告青木二郎(以下「二郎」という。)

事故の態様 被告菅が加害車両を運転して、前記場所を杉田方面から八幡橋方面に向け進行中、折りから右道路を横断中の原告二郎に加害車両を激突させた。

2  原告二郎の受傷内容、治療経過、後遺症

(一) 受傷内容

原告二郎は、本件事故により、頭部外傷、頭骨陥没骨折、脳挫傷、右骨盤骨折、右股関節中心性脱臼、右腓骨骨折の傷害を受けた。

(二) 治療経過

(1) 昭和五八年一〇月二一日から同年同月二七日迄(実日数七日)磯子中央病院に入院

(2) 昭和五八年一〇月二七日から昭和五九年六月二八日迄(実日数二四五日)横浜中央病院に入院

(3) 昭和五九年六月二八日から同年一二月二〇日迄(実日数一七六日)、昭和六〇年一月七日から同年七月一九日迄(実日数一九四日)七沢障害交通リハビリテーシヨン病院(その後神奈川リハビリテーシヨン病院に名称変更)に入院

昭和六〇年八月二〇日同病院に通院

(三) 後遺症

原告二郎は、本件事故による受傷のため、神経系統に障害を残し、歩行、起き上がり等の肉体的な機能は失われて、その回復の見込みはなく、日常生活には殆ど常時介助を要し、就労不能の後遺障害を残すに至つたもので、右障害は、自賠法施行令第二条別表後遺障害別等級表第一級第三号の障害に該当する。

3  被告等の責任

(一) 被告会社

被告会社は、加害車両を所有し、自己のため運行の用に供していたから、自賠法第三条により本件事故により生じた損害を賠償すべきである。

(二) 被告菅

被告菅は、加害車両を運転するに当つて、前方注視義務を怠つた過失によつて本件事故を発生せしめたもので、民法第七〇九条により本件事故により生じた損害を賠償すべきである。

4  原告青木和子と原告二郎の関係

原告青木和子(以下「和子」という。)は原告二郎の妻である。

5  原告二郎の損害

(一) 入院中に支出した費用

(1) 入院雑費 六二万円

原告二郎の入院日数六二〇日につき、一日当り一〇〇〇円

(2) 付添看護費用 五七万五〇〇〇円

原告二郎の入院期間中、原告和子は六日に一日の割合で合計一〇三日、原告二郎の子の訴外青木妙子は七日に一日の割合で合計八八日それぞれ原告二郎の付添看護に当つた。

原告和子分 三一万円(一日当り三〇〇〇円の一〇三日分)

訴外青木妙子分 二六万五〇〇〇円(一日当り三〇〇〇円の八八日分)

(3) 付添看護のための交通費 一五万七三二〇円

原告二郎が入院していた神奈川リハビリテーシヨン病院迄国鉄、私鉄、バスを利用すると、一人一回につき一三八〇円の交通費がかかるので、原告和子、訴外青木妙子が付き添い看護のため要した交通費は一五万七三二〇円である。

(4) 交通費 九万五四〇〇円

原告二郎は、神奈川リハビリテーシヨン病院に入院の際、同病院に入院中に自宅訓練のため帰宅した際並びに横浜中央病院に通院した際タクシーを利用し、その費用を支出した。

ア 昭和六〇年一月七日 神奈川リハビリテーシヨン病院入院一万一〇〇〇円

イ 昭和六〇年三月九日 自宅訓練 一万〇四九〇円

ウ 昭和六〇年五月一二日 自宅訓練 一万一〇〇〇円

エ 昭和六〇年六月二日 自宅訓練 一万〇七七〇円

オ 昭和六〇年六月三日 自宅訓練 一万一三五〇円

カ 昭和六〇年六月八日 自宅訓練 一万一七三〇円

キ 昭和六〇年六月九日 自宅訓練 一万一四九〇円

ク 昭和六〇年七月七日 自宅訓練 一万二九五〇円

ケ 昭和六〇年一〇月二八日 横浜中央病院通院二四七〇円

コ 昭和六〇年一一月七日 横浜中央病院通院 二一五〇円

(5) 家政婦代 四七万六四〇九円

(二) 医療器具代 四〇万七九〇〇円

電動ベツト 六万七〇〇〇円

松葉杖等 三万八〇〇〇円

車椅子 二万四四〇〇円

リフト 二六万円

便器 一万八五〇〇円

(三) 家屋改造費 一〇〇万円

原告二郎は、常時車椅子による生活を余儀なくされているため、手洗、風呂場等の出入口を拡張する必要が生じ、そのため一〇〇万円の工事費が見込まれている。

(四) 付添看護費用 一四三一万三三〇六円

原告二郎は、本件事故のため自賠法施行令第二条別表後遺障害別等級表第一級第三号の障害を受け、常時監視、介護を要する状態になつた。右介護に要する費用は次のとおりである。

(1) 昭和六〇年一〇月一日から昭和六二年一二月三一日迄三二八万八〇〇〇円(一日当り四〇〇〇円の八二二日分)

(2) 昭和六三年一月一日から昭和六三年三月三一日迄

四〇万九五〇〇円(一日当り四五〇〇円の九一日分)

(3) 昭和六三年四月一日以降

原告二郎は、明治四四年一一月二八日に出生し、昭和六三年四月一日現在七六歳四ケ月で、同原告の平均余命は八・六八年であつて、その間、少なくとも一日当り四五〇〇円の介護費用を要するから、ライプニツツ方式による年五分の割合による中間利息を控除すると、その現価は次のとおり一〇六一万五八〇六円になる。

4500円×365×6.4632=1061万5806円

(五) 休業損害 一九八万円

原告二郎は、本件事故当時、宗教法人日蓮宗妙蓮寺において雑役の手伝等をして、月額六万円の収入を得ていたものであるが、本件事故により、本件事故の翌月の昭和五八年一一月から昭和六一年七月まで合計三三か月間休業せざるを得ず、一九八万円の損害を受けた。

(六) 逸失利益 二五五万三一二〇円

原告二郎は、症状固定時の昭和六一年七月当時満七四歳の男子であつて、本件事故当時月額六万円の収入を得ていたものであるところ、本件事故により労働能力の一〇〇パーセントを失つたから、原告二郎は、本件事故にあわなければ四年間就労可能で、その間少なくとも右同額の収入を得ることができたもので、ライプニツツ方式による年五分の割合による中間利息を控除すると、その現価は、次のとおり二五五万三一二〇円になる。

6万円×12×3.546=255万3120円

(七) 慰謝料 二五〇〇万円

(1) 傷害慰謝料

原告二郎は、本件事故により前示の傷害を受け、六二〇日もの間入院生活を余儀なくされたもので、本件事故によつて受けた右精神的苦痛を慰謝するには五〇〇万円をもつてするのが相当である。

(2) 後遺慰謝料

原告二郎は、本件事故により自賠法施行令第二条別表後遺障害別等級表第一級第三号の後遺障害が残つたもので、本件事故によつて受けた右精神的苦痛を慰謝するには二〇〇〇万円をもつてするのが相当である。

(八) 弁護士費用 二三〇万円

原告二郎は、被告等が原告等の損害賠償請求に応じなかつたため、本訴の提起・追行を原告等訴訟代理人に委任し、その費用として、二三〇万円の支払を約した。

6  原告和子の損害

(一) 逸失利益 二五七万〇三二〇円

原告和子は、昭和六〇年九月三〇日、原告二郎の介護に専念するため退職した。

退職当時、原告和子は、昭和六一年三月三一日まで就労可能で、退職前三か月の平均月収は三〇万〇四二五円、昭和六〇年一二月に支給を受けられた賞与は七六万七七七〇円であつたから、原告和子は、次のとおり二五七万〇三二〇円の得べかりし利益を失つた。

30万0425円×6+76万7770円=257万0320円

(二) 慰謝料 一五〇万円

原告和子は、本件事故により長期間入院治療生活を続けた原告二郎の看護に従事し、退院後も原告二郎が殆ど常時介護を要する状態にあるため、楽しい老後の生活を送る希望を断ち切られたばかりか、将来にわたつて不自由な夫の姿を見ながら専ら原告二郎の介護に明け暮れる不安な生活を余儀なくされている。このような原告和子の精神的苦痛を慰謝するには一五〇万円の支払をもつてするのが相当である。

7  損害の填補

以上によると、原告二郎の受けた損害は四八八七万八四五五円になるが、原告二郎は、自賠責保険から一三七三万円、被告会社から五〇万円の支払を受けたのでこれを同原告の損害に充当すると、同原告の受けた損害は三五二四万八四五五円になる。

8  結論

よつて、被告等各自に対し、原告二郎は損害のうち二〇九三万五一四九円、原告和子は四〇七万〇三二〇円及び右各金員に対する被告等に本件訴状が送達された日の翌日である昭和六一年九月六日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  1項の事実のうち、事故の態様を除き、その余は認める。

事故態様のうち、加害車両と原告二郎が衝突したことは認め、その余は争う。

2  2項の事実は知らない。

3  3項(一)の事実のうち、被告会社が加害車両の保有者であることは認め、その余は争う。

同(二)の事実は争う。

4  4項の事実は知らない。

5  5項、6項の各事実は知らない。

6  7項の事実は認める。

三  抗弁

本件事故は、原告二郎が、交通頻繁な道路で、夜間、飲酒の上、突然道路中央に飛び出してきたため発生した事故で、原告二郎にも重大な過失があるから、相当額の過失相殺をすべきである。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は争う。

第三証拠

証拠の関係は、本件記録中の書証目録、証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  争いのない事実

請求原因1項(事故の発生)の事実のうち、本件事故の態様を除くその余の事実は当事者間に争いがない。

二  本件事故の態様

成立に争いのない甲第二四、第二五号証、乙第二、第三、第四、第六号証によると、次の事実を認めることができる。

1  本件事故現場は、杉田方面から八幡橋方面に至る国道一六号線上で、同国道は、歩車道が区別され、車道の幅員は一五メートル、上下線ともそれぞれ二車線に別れており、本件事故現場で、八幡橋方面への進行路線には国道と交差する幅員四・二メートルの市道がある。

なお、右国道は、本件事故現場付近で直線で、見通しはよく、かつ、公安委員会により最高制限時速を四〇キロメートルと指定されている道路である。

2  本件事故当時、被告菅は加害車両を運転して、杉田方面から八幡橋方面に向け時速約六〇キロメートルで第二車線を進行していた

3  被告菅の運転する加害車両が本件事故現場の手前約七六メートルの地点に差しかかつたとき、被告菅は、原告二郎が歩道から降りて、車道を横断しようとしているのを認めた。

原告二郎のいた場所には水銀灯があり、ラーメン店の前で、店の照明もあつて、周囲は明るかつた。

4  被告菅は、原告二郎の横断より早く通過できるものと考え、減速することなく、そのまま加害車両を進行させたところ、原告二郎は、一瞬立止まるような格好をしたが、そのまま第二車線上に進出してきたため、被告菅は、急制動の措置をとろうとしたが及ばず、加害車両の前部を原告二郎に衝突させ、ボンネツト上に跳ね上げ、路上に落下、転倒させた。

5  原告二郎は、当日事故直前まで本件事故現場前のラーメン店で飲酒し、かなり酩酊していた。

以上のとおり認められ、右認定を左右するに足る証拠はない。

三  原告二郎の受傷内容、治療経過、後遺症

成立に争いのない甲第二号証ないし第一二号証(第二、第三、第五、第六号証は原本の存在とも)、原告青木和子本人尋問の結果、鑑定人永田正博、同持松泰彦の鑑定結果によると、次の事実を認めることができる。

1  受傷内容

原告二郎は、本件事故により、頭部外傷、頭骨陥没骨折、脳挫傷、右骨盤骨折、右股関節中心性脱臼、右腓骨骨折の傷害を受けた。

2  治療経過

原告二郎は、昭和五八年一〇月二一日から同年同月二七日迄(実日数七日)磯子中央病院に入院し、看護の便宜から、昭和五八年一〇月二七日に横浜中央病院に転医し、同日から昭和五九年六月二八日迄(実日数二四五日)同病院に入院し、リハビリのため、昭和五九年六月二八日に七沢障害交通リハビリテーシヨン病院(その後神奈川リハビリテーシヨン病院に名称変更)に転医し、同日から同年一二月二〇日迄(実日数一七六日)同病院に入院した。退院後右下腿膿瘍治療のため、昭和六〇年一月七日から同年七月一九日迄(実日数一九四日)同病院に入院し、同年八月二〇日同病院に通院した。

3  後遺症

原告二郎が、本件事故による受傷のため受けた障害は、昭和五九年一二月二〇日固定した。同原告は、整形外科面からの所見では、頭部外傷による軽度の麻痺と廃用性筋萎縮のため筋力低下をきたし、四肢関節の拘縮に至り、脳神経外科面からの所見では、脳挫傷に原因する高度の痴呆状態にあり、歩行、起き上がり等の肉体的な機能は失われて、その回復の見込みはなく、日常生活には全て介助を要する後遺障害を残すに至つたもので、右障害は、自賠法施行令第二条別表後遺障害別等級表第一級第三号の障害に該当する。

四  被告等の責任

1  被告会社

被告会社が、加害車両を所有し、自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがないから、同被告は、自賠法第三条に基づき本件事故により生じた損害を賠償すべき責任がある。

2  被告菅

二項に認定の事実によると、被告菅は、加害車両を運転するに当つて、加害車両を運転して本件事故現場の手前に差しかかつたとき、道路を横断しようとしていた原告二郎を発見したのであるから、減速して、同原告の動静に注意し、同原告が道路の横断を開始したときには、直ちにこれを回避できるような速度と方法で加害車両を運転すべき注意義務があつたにもかかわらずこれを怠つた過失があり、右過失によつて本件事故を発生せしめたもので、同被告は民法第七〇九条により本件事故によつて生じた損害を賠償すべき責任がある。

五  原告和子と原告二郎の関係

成立に争いのない甲第二一号証によると、原告和子は原告二郎の妻であることが認められる。

六  原告二郎の損害

1  入院中の費用

(一)  入院雑費

前示の事実によると、原告二郎は、症状固定の昭和五九年一二月二〇日まで四二八日入院したことが認められる。しかるところ、経験則によれば、原告二郎の入院経過に照らし、右期間中一日少なくとも一〇〇〇円の雑費を支出したものと推認することができるので、四二万八〇〇〇円をもつて相当損害額と認める。

(二)  付添看護費用

原告二郎は、同原告の入院期間中、原告和子は六日に一日の割合で合計一〇三日、原告二郎の子の訴外青木妙子は七日に一日の割合で合計八八日それぞれ原告二郎の付添看護に当つたとして、原告和子分三一万円(一日当り三〇〇〇円の一〇三日分)、訴外青木妙子分二六万五〇〇〇円(一日当り三〇〇〇円の八八日分)を請求する。

しかし、原告青木和子本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第二九号証の一ないし三、同尋問結果によると、原告二郎が請求する付添看護費用は、昭和五九年六月二九日以降の神奈川リハビリテーシヨン病院の分と認められるところ、右病院は完全看護であつて、特段の事情がない限り付添看護を必要としなかつたものと認められるところ、右特段の事情があつたことの証拠も無いので、同原告の主張はその余の点につき判断するまでもなく認められない。

(三)  付添看護のための交通費

原告二郎は、同原告が入院していた神奈川リハビリテーシヨン病院迄国鉄、私鉄、バスを利用すると、一人一回につき一三八〇円の交通費がかかつたとして、原告和子、訴外青木妙子が付き添い看護のため要した交通費一五万七三二〇円を請求する。

しかし、前示のとおり、原告二郎に付添いを要したことの証拠はないから、その余の点につき判断するまでもなく、同原告の主張は認められない。

(四)  交通費

原告二郎は、昭和六〇年一月七日に神奈川リハビリテーシヨン病院へ入院した際利用したタクシー代、昭和六〇年三月九日、同年五月一二日、同年六月二日、同年六月三日、同年六月八日、同年六月九日、同年七月七日同病院から自宅訓練のため帰宅し、帰院した際利用したタクシー代、昭和六〇年一〇月二八日、同年一一月七日に横浜中央病院通院した際利用したタクシー代を請求するのであるが、右支出は、いずれも原告二郎の症状が固定した昭和五九年一二月二〇日以後に生じた右下腿膿瘍の治療に関し支出された費用であるから、その余の点につき判断するまでもなく、同原告の主張は認めることができない。

(五)  家政婦代

原告青木和子本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第一九号証の一ないし一二、同尋問結果によると、原告二郎は、昭和五九年一二月二〇日から同月二八日まで、昭和六〇年一月七日から同月一一日まで、同月一四日、同年七月二三日から同年一〇月四日まで、同月二九日に家政婦を頼み、四七万六四〇九円を支出したことが認められる。

しかし、原告二郎の症状は昭和五九年一二月二〇日固定しており、その後の介護費用については、後記のとおり、同日から一〇年間分を認めるので、同原告の請求はこれと重複し、認めることができない。

2  医療器具代

成立に争いのない甲第一六号証の一、二、原告青木和子本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第一四号証の一、二、第一五号証、第一七号証の一、二、同尋問結果によると、同原告は、電動ベツトを購入し、その費用として六万七〇〇〇円を支出し、松葉杖等を購入し、その費用として三万八〇〇〇円を支出し、車椅子を購入し、その費用として二万四四〇〇円を支出し、リフトを購入し、その費用として二六万円を支出し、便器を購入し、その費用として一万八五〇〇円を支出したことが認められ、右支出は本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

3  家屋改造費

弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第二六号証によると、原告二郎は、洗面所のドアの拡張工事をし、その費用として一五万円を支出したことが認められ、右支出は、本件事故と相当因果関係のある損害と認められる。

原告青木和子本人尋問の結果により真正に成立したものと認める甲第二七、第二八号証、同尋問結果によると、身体障害者の入浴介助具が開発され、その取付けに七四万八〇〇〇円を要することが認められるが、同尋問結果によると、原告二郎は、現在、福祉による外部入浴を受けていることが認められ、右介具を要するものとはにわかに認めがたく、そのための費用を本件事故による損害と認めることはできない。

4  付添看護費用

前示のとおり、原告二郎は、本件事故のため自賠法施行令第二条別表後遺障害別等級表第一級第三号に該当する障害を受け、常時監視、介護を要する状態になつたものであるところ、原告二郎は、症状固定時の昭和五九年一二月当時満七三歳の男子であつて、昭和六〇年簡易生命表による、平均余命が一〇・一二年であることは当裁判所に顕著な事実であるから、原告二郎は一〇年間介護を要し、その間、すくなくとも、一日あたり四五〇〇円の介護費用を要するものと認められる。しかるところ、ライプニツツ方式による年五分の割合による中間利息を控除すると、その現価は次のとおり一二六八万二八九二円になる。

4500円×365×7.7217=1268万2892円

5  休業損害

原告青木和子本人尋問の結果により原本の存在、真正に成立したものと認める甲第二〇号証、同尋問結果によると、原告二郎は、本件事故当時、宗教法人日蓮宗妙蓮寺において雑役の手伝等をして月額六万円の収入を得ていたこと、本件事故により、昭和五八年一〇月二二日から昭和五九年一二月二〇日まで合計一四か月間休業したことが認められるから、原告二郎は、八四万円の休業損害を受けたものと認められる。

6  逸失利益

前示のとおり、原告二郎は、本件事故のため自賠法施行令第二条別表後遺障害別等級表第一級第三号に該当する障害を受けたもので、その労働能力の一〇〇パーセントを失つたものと認められるところ、原告二郎は、前示のとおり症状固定時の昭和五九年一二月当時満七三歳の男子で、平均余命が一〇・一二年であつたから、原告二郎は平均余命の約二分の一である五年間就労可能であつたものと認めるのが相当である。

しかるところ、原告二郎は、本件事故当時月額六万円の収入を得ていたから、原告二郎は、本件事故にあわなければ五年間就労可能で、その間少なくとも右同額の収入を得ることができたもので、ライプニツツ方式による年五分の割合による中間利息を控除すると、その現価は、次のとおり三一一万七一六八円になる。

6万円×12×4.3294=311万7168円

7  慰謝料

原告二郎は、前示のとおり本件事故により傷害を受け、長期に亘る入院生活を余儀なくされ、かつ、自賠法施行令第二条別表後遺障害別等級表第一級第三号の後遺障害が残つたもので、本件事故の態様、その他本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、原告二郎の精神的苦痛を慰謝するには二〇〇〇万円の支払をもつてするのが相当である。

七  原告和子の損害

1  逸失利益

原告和子は、昭和六〇年九月三〇日、原告二郎の介護に専念するため退職したとして、退職予定の昭和六一年三月三一日までの収入並びに賞与を損害として請求するのであるが、前示のとおり、原告二郎の症状は昭和五九年一二月二〇日固定しており、その後の原告二郎の介護費用については、原告二郎の損害として認定済みであつて、原告和子の請求はこれと重複し、認めることができない。

2  慰謝料

原告青木和子本人尋問の結果、弁論の全趣旨によると、原告和子は、原告二郎の妻であるところ、原告二郎が本件事故によつて受けた傷害、後遺症の程度、原告二郎が将来にわたつて殆ど常時介護を要する状態にあること等を考慮すると、原告和子が本件事故により受けた精神的苦痛は極めて大きく、その精神的苦痛を慰謝するには一五〇万円の支払をもつてするのが相当と判断される。

八  過失相殺

前示のとおり、本件事故は、被告菅が、加害車両を運転して本件事故現場の手前に差しかかつたとき、道路を横断しようとしていた原告二郎を発見したのであるから、減速して、同原告の動静に注意し、同原告が道路の横断を開始したときには、直ちにこれを回避できるような速度と方法で加害車両を運転すべき注意義務があつたにもかかわらずこれを怠り、同原告が道路を横断する前に通過できるものと即断し、漫然加害車両を進行させたことに原因があるが、原告二郎にも、夜間、飲酒の上、交通頻繁な道路を横断しようとし、接近してくる加害車両に注意を払わないで、道路中央に飛び出した過失があり、右事実に本件に顕れた諸般の事情を考慮すると、本件事故により生じた損害につき、その三〇パーセントを控除するのが相当と認められる。

九  損害の填補

以上によると、原告二郎の受けた損害は二六三三万八一七二円、原告和子の受けた損害は一〇五万円になるが、原告二郎が自賠責保険から一三七三万円、被告会社から五〇万円の支払を受けたことは当事者間に争いがないので、これを同原告の損害に充当すると、同原告の受けた損害は一二一〇万八一七二円になる。

一〇  弁護士費用

弁論の全趣旨によると、原告二郎が本訴の提起・追行を原告等訴訟代理人に委任し、相当額の費用を負担したものと認められるところ、本件事案の内容、認容額等諸般の事情を考慮すると、弁護士費用は一二〇万円をもつて相当額と認める。

一一  結論

以上によると、原告等の本訴請求は、被告等各自に対し、原告二郎は一三三〇万八一七二円、原告和子は一〇五万円及び右各金員に対する本件訴状が被告等に送達された日の翌日である昭和六一年九月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を、仮執行宣言について同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 木下重康)

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